シリーズ「愛犬の介護の記録」は、筆者のかつての愛犬ポピィについて書いた過去のブログの記事を再構成してこのサイトに転載したものです。
必要な人とワンちゃんのお役に立てれば幸いです。
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盲目の愛犬との暮らし
見えないことに慣れるのを見守る
視力を失って目が見えなくなることは、とても大きな問題です。しかし、犬は見えないことに順応してゆきます。
目が見えなくなった犬は、寝床やトイレという認識そのものができないのではなく、見えないだけなので、匂いや位置関係でそれぞれの存在と場所を覚えていれば大体のことはできます。
老犬の暮らしといえば、主に「寝床」と「トイレ」と「ごはん&水」を一日に何度か往復する程度のものであり、基本的にはそれさえ満足に出来れば十分だと思います。
私の愛犬ポピィは、目が見えないことに慣れた後は、
- 見えなくてもちゃんと一人でトイレに行って排泄をして、
- お腹が空いたら自分で食事をして水を飲んで、
- そしてまた寝床に戻って寝る、
ということが一人前にできるようになりました。
あまりに正確に歩くので、何か超能力や第六感でも持っているのではないかと感心してしまいました。実際にはそんなことではなくて、犬という生き物は驚くべき能力を秘めている生き物なのです。
もちろん、やはり目が見えない分、ときどき間違えたり失敗することもありました。
たとえば、トイレに向かっていったけど、トイレの一歩手前でしてしまったとか、ごはんのお皿を踏んで中身をこぼしたり、飲み水の中に足を入れてしまい毛がびちょびちょになったり。
このように、目が見えない犬はたまに失敗することもありますが、それが当然といえば当然ですよね。
それでも本人は見えないなりにちゃんとトイレに向かったり、自分で食事をしようとしているわけですから、失敗しても怒らないであげてください。上手に排泄や食事ができたときには、褒めてあげてください。
私はこのような考えをもってポピィを見守り・支えました。
見えなくても暮らしやすい環境を作る 【構想】
目が見えない者にとっては、行動できる範囲が広くて複雑であるほど移動が難しいものです。
わかりやすく考えるために、自分のこととして想像してみます。
例えば
たとえば私たち人間が、目をつむったまま、1階のバスルームから2階のベランダまで行くのはきっと難しい。途中にはドアや段差、曲がり角や階段があって、何度もぶつかったり立ち止まったりするでしょう。
だけど、同じ階にあるキッチンから隣のリビングのソファへは、目をつむってもきっと楽々辿り着けるでしょう。
このように考えると、「寝床」「トイレ」「ごはん&水」といった生活拠点は、それぞれの距離が近くて、間にある道のりはシンプルであるほど、生活は楽で安全なはずです。
したがって、家の中での愛犬の行動範囲を区切って制限して、その中に「寝床」「トイレ」「ごはん&水」といった生活拠点が存在するようにしてあげれば、目が見えない愛犬も概ね自立した生活ができるはずです。
愛犬が視力を失ってゆく過程で、私はこのようなことを考えていました。
見えなくても暮らしやすい環境を作る 【実践】
まずはじめに家の中での愛犬の生活拠点の位置関係をコンパクトでシンプルな動線にまとめました。
次に、自作の「ガイドウォール」を使って行動範囲をバリアフリー化しました。これにより、行動範囲を小さく、道のりを単純にすることができました。
ガイドウォール
環境づくりの一番のポイントになったのは「ガイドウォール」でした。
目が見えない愛犬の行動範囲を区切って制限するには、なんらかの壁が必要です。また、目が見えないと、誤って妙な隙間に入り込んでしまったり、物に激しく頭をぶつけたりすることがあります。そんな迷い込みや衝突・怪我を予防するために、かんたんな壁を作ってあちこちに並べたのでした。
これにより、愛犬ポピィは注意深く恐る恐る歩かなくても、もう迷ったり酷く頭をぶつけるようなことはなくなり、寝ぼけてフラフラしていても、壁伝いに歩けば一周して戻って来られるようになりました。
おかげでポピィも私も、幾分安心感を得ることができました。ただの壁ですが、とても頼りになるアイテムでした。
様子を見やすい場所に
生活拠点を組み替えるときに、それまではリビングに在った愛犬の寝床を私の寝室に置きました。これは大事なことでした。これにより、夜中でも自分がベッドに横になったままで愛犬の様子を確認することができるようになりました。
体調を崩したときには寝ずの看病が必要な時もありましたが、愛犬と同じ部屋で眠ることで、睡眠を取りながら看病することができました。
生活拠点の変更は早めに・最小限に
このような「犬の生活拠点の変更」や「行動範囲の制限」は、できるならなるべく目が見えている間に済ませておくことがベターだと思います。
私は愛犬ポピィが完全に失明する前に「犬の生活拠点の変更」を実行しておいたので、目が見えている間に老後の生活環境や動線をしっかり覚えさせることができました。
また、「寝床」「トイレ」「ごはん&水」といった生活拠点の場所を全て変えてしまうと愛犬が戸惑ったり、ちゃんと覚えられない可能性があるので、たとえば「トイレの場所はそのままで、寝床とごはんを移動する」など、なるべく変更が少なく済むように考えてあげるべきであると思います。
コミュニケーションの方法を考える
目が見えなくなった愛犬への指示や合図には、工夫が必要でした。私の愛犬ポピィは視力より先に聴力を失っていたので、声や音もコミュニケーションには使えませんでした。
このため、一定の規則性をもって体に触れたり、物の匂いを嗅がせることと、次にする行動を結びつける「タッチと匂いによるコミュニケーション」をやってみて、覚えさせました。
例えば
たとえば、犬は「散歩に行くよ」の呼びかけが好きで、それだけで大喜びする子が多いものですが、盲目かつ難聴の犬にはそれもわかりません。
この「呼びかけと反応」という単純なコミュニケーションを盲目かつ難聴の愛犬と交わすために、私は次のような方法を取りました。
- まず、リードや散歩時に持っていくバッグの匂いを嗅がせる
- 次に、体をポンポンと触って寝床から起こす
- それから散歩に連れて行く。
これを1セットのパターンとして毎日繰り返してゆくと、次第にその関連性を覚えるので、最後はリードとバッグの匂いを嗅がせるだけで「さんぽだ!」と目を輝かせて自分で立ち上がるようになりました。
同様に、人間から犬に大して行うすべての行動をこのようなタッチと匂いによる合図で結び付けてあげると、目が見えなくても・耳が聞こえなくても、大体は感じ取ってくれるようになります。
私の愛犬ポピィの場合は、薬を飲むときに自分で口を開けて待つことができるようになりました。
見えない愛犬にも幸せを
盲目で耳の聞こえない愛犬に安心や喜びを感じさせるためには、ここまでにご紹介したような快適でストレスフリーな生活空間を用意してあげることと、なるべく人が傍にいて頻繁に体に触れてあげることです。
様子をよく見て、オシッコをしたいようなら、体に手を添えてトイレまで誘導してあげればいいし、自分ひとりでトイレに行けたなら体を撫でて褒めてあげるといいでしょう。
壁や障害物に直行していってぶつかりそうだったら、ぶつかって驚く前に止めてあげたり、退屈してフラフラと彷徨っているようなときには抱き上げてマッサージしてあげるなど、「見えなくても安心して暮らせる」という実感をよく与えてあげることが大切だと思います。
また、私の愛犬ポピィはごはんをお皿から自分で食べるよりも、人の手から直接もらうのが好きでした。人の手から1粒ずつ食べると、お皿から食べるよりも食事に時間がかかりますが、本人はそうやって時間をかけて私の手から受け取って食べるのが好きでした。
このような犬の行動は「甘え」であり、犬に対して甘えを許すという対応になりますが、目の見えない愛犬と共有できる数少ない意思疎通の形ですから、たまにはそんな甘えに応えてあげるのも良いと思います。
そして、「目が見えなくても出来ることはさせてあげる」ということが大切です。
私の愛犬ポピィは、目が見えなくても散歩ができました。目が見えなくなってからは、散歩をしている時が一番嬉しそうでした。
見えないことに慣れても、やはり見えないことによる不安やストレスは常に感じているはず。
そんな不安やストレスを忘れられる心地良い時間をいつも持たせてあげることが大切だと思います。
「ニオイ」は大切なもの
目が見えない犬は、「匂い」と「記憶」によって空間認知をしています。
また、執拗に匂いを嗅ぎ続けることで、新たな情報や匂いの記憶を増やしてゆきます。
したがって、家の中で香水や薬品などの余計な匂いをさせたり、寝床やトイレなどの生活拠点に異なる匂いを付けたりすると、犬が迷ったりわからなくなったりする原因になるかもしれません。
また、寝床などは犬自身の匂いが付いていることで、本人にとって目印になったり安心できる場所になっています。それを無闇に「洗濯」して犬の匂いが無くなってしまうと、落ち着きがなくなったりするかもしれません。
そのため私はなるべく必要以上に洗濯しないようにして、おもらしなどした場合も、寝床のすべてを洗ってしまうことはしないで、クッションが汚れたらクッションだけ、布団が汚れたら布団だけを洗うようにして、常に寝床からは犬の匂いが漂うように心がけていました。
「匂い」は目に見えないものですし、人と犬は匂いを同じように感じることができませんが、想像力を膨らませて、なるべく愛犬が快適に暮らせるように、「匂い」についても注意を払ってあげるべきだと思います。
このような「目が見えない愛犬のための気配り・目配り」が、愛犬の生活を支えて、安心感を与え、
結果的に「見えないなりにある程度自立した生活」が送れるようになりました。
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